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------------------- SQAMT News No.0013 [2003.10.01] ------------------
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                             Contents
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お知らせ:会員動向

論 壇 :ヒトには何故病気が多いのか
 
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お知らせ:会員動向
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[入会](敬称略)
2003.09.24 石井 敬介 ヒュービットジェノミクス株式会社 研究開発部

[2003.09.24 総務担当理事 西堀 眞弘]
 
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論 壇 :ヒトには何故病気が多いのか
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 今から38億年前、地球上に初めて生命というものが誕生して以来、激しい
進化が繰り返され、最も進化した生命体ヒトが誕生し、今日がある。初めて生
命体が登場した当初は、単細胞体が単純に分裂を繰り返す増殖形態であったた
め、分裂の過程で多少の遺伝子変異は起こるものの、ほとんど親の形質がその
まま分裂した子に伝えられていた。工場の大量生産システムに似ている。しか
しこれでは子孫を残す、という点では不利である。何故なら、地球上の環境が
激しく変化する中で、単一の形質を持った種の集団では、しなやかさに欠け、
環境が変化すると生きて行けず、集団すべてが全滅する危険性さえあった。暑
さに強い細胞、寒さに強い細胞、湿気に、乾燥に、といった具合に形質が異
なった種が集団を形成してこそ、環境にそぐわない一群は失われるものの他は
生き残り、その種は保存され、そこからまた多様性のある細胞群が広がってい
く訳である。

 数年前から世界規模で始まったヒト遺伝子の全塩基配列の解読は佳境を迎
え、ヒトの全遺伝子はおおよそ3−4万個に過ぎないことがわかってきた。こ
の数はハエの1.5〜2.0倍しかないことになり、予想をはるかに下回るその数に
驚いた研究者も多かった。しかしよく考えてみるとこの数はまったく驚愕には
値しない。ヒトとチンパンジーの遺伝子は3%しか違わない。にもかかわらず
両者の外見、習性、知能など多くが著しく異なっている。すなわち、遺伝子の
種類のみが、形質の違いを規定しているのではないということになる。同じ大
和民族だけに限ってみても、遺伝子はほぼ同じなのに、顔つきも、骨格も、肌
の色も著しく異なるのは、遺伝子の種類の違いだけではなく、調節遺伝子に
よって調整され作られるたんぱくの量が固体によって異なるからである。その
蛋白の発現量の違いの組み合わせが無限といってよいほどの形質の違いを生み
出している。

 原始生命体から端を発し、原核生物、真核生物、多細胞生物、脊椎動物、両
生類以降の地上への進行、、、、そしてついに30万年前人類が誕生した。し
かし、それぞれの進化と引き換えに、われわれ生物は、必然的にさまざまな病
気を獲得せざるを得なかった。原核生物では、細胞同士が寄生、共生を始め、
異種の生命体の侵略を受けた。真核生物になると雌雄の別が生まれ、親と違う
形質の生命体が次々に作られるようになってきたが、新しい生命を誕生させる
には、古い細胞は死滅せざるを得ず、細胞分裂を繰り返す度に染色体のテロメ
アを短くし老化していくシステムが組み込まれた。細胞が死ぬ、という必然が
生まれたのはこのステップである。さらに多細胞生物が登場すると、それぞれ
の細胞が思いのままに勝手に増殖するわけには行かないので、細胞の分化・増
殖の統御システムを獲得する必要があった。しかしシステムは当然のことなが
ら破綻することもある。これが特定の細胞が増殖し続ける癌化現象で、多細胞
生命体にとって必然の現象となった。

 脊椎動物では、全身に酸素と栄養を行き渡らせるシステムを構築するため、
脈管系を獲得する必要があった。ところが、この栄養と酸素を豊富に含み滋養
に富んだ液体の流れは、同時にウイルスや細菌などの格好の猟場となるため、
感染症の問題が生まれ、これに対抗するため、脊椎動物は免疫システムを獲得
する必要が生じた。ところが、この免疫システムは、外敵だけを選択的に攻撃
する一寸法師の針程度のものでは病原体を駆追するのには不十分であるため、
ブルドーザーのような強力な免疫システムを用意する必要があった。中には、
自己と外的の区別ができなくなったリンパ球も産生され、自己免疫疾患、アレ
ルギーに苦しむ必然が生まれた訳である。さらに両生類以後、陸に上がった生
物は、重力と乾燥対策を余儀なくされ、高血圧、皮膚・粘膜疾患に苦しめられ
るようになる。さらに、ヒトまで進化し立位で生活するようになると、腰痛
症、ヘルニアに苦しむようになり、脳の発達とともに精神神経疾患が生じ、文
明の進歩とともにさまざまな文明病が起こる必然が生まれた。このように進化
の過程でその進化に呼応した病気が生まれるため、最も進化したヒトに最も病
気が多いのは当然のことということになる。

 ヒトの全遺伝子配列がわかった後、病因遺伝子がほとんど明らかになるのは
時間の問題である。自分の遺伝子は将来どのような病気を起こし易いかと言っ
た「遺伝子ドッグ」のような予防医学が行き渡るのも時間の問題である。

 近未来、ヒトは人工授精の手法を用い、“優秀な遺伝子”を持ったヒトを意
のままに誕生させることもできるようになるであろう、といった期待、不安を
そのまま映画にしてしたのが「ガタカ」である。自然出生によって生まれた
“不適正者”ヴィンセントは、優秀な遺伝子をスクリーニングして生まれた
“適正者”たちが支配する時代に生れ落ちる。この時代、遺伝子解析により事
実上、“適正者”と“不適正者”が選別され、将来の職業まで規定されてい
た。遺伝子解析の結果、成人を過ぎると重い心臓病を持つことがわかっている
ヴィンセントは、宇宙局“ガタカ”の清掃夫として、悶々とした日々を送って
いた。しかしヴィンセントは、宇宙飛行士になる夢を叶えるため、“不適正
者”に選別されているにも拘らず、夢の実現に向け、筋力トレーニングに励
み、幾多の努力を重ねていた。そんな折、下半身不随になって将来の夢を絶た
れた“優秀な遺伝子”を持つユージンと巡り会う。ヴィンセントは取引をし、
彼に成りすまして宇宙局“ガタカ”に入社し、宇宙航海士になるチャンスを得
ることに成功した。その頃のセキュリティーチェックは巧妙かつ厳重であった
が、あの手この手で頻繁に行われる生化学検査を潜り抜け、彼はついに宇宙探
査船の航海士の座を射止める。しかし、ある日ガタカで起こった殺人事件を
きっかけにヴィンセントは正体がばれそうになり、“適正者”に選別され、刑
事となった弟に追われる羽目になってしまう。しかしこの映画では結局ヴィン
セントは宇宙航海士として立派な適性を持っていることがわかり、宇宙旅行に
出かけるところで終わる。個人よりもDNAを優先する未来社会で、夢を追い続
けるヴィンセントは苦悩に満ちた生活を強いられるが、ヒトの能力は遺伝子だ
けでは規定されない、というメッセージを送ってくれる。

 確かに、遺伝子研究が進むと現代を生活する人にとって都合の良い遺伝子と
そうでない遺伝子が大別され、“不適正者”となった人々は世の中の片隅に追
いやられてしまう危険性は大きい。「ガタカ」の如く、多くの人が所有したい
と願う遺伝子は結局のところ似通っており、人工授精により、遺伝子の選別が
行われる時代がやって来る。病気に成り易い遺伝子はすべて排除され、足が長
く、身長も高く、頭が良く、色は白くかっこいい、パターン化された単一な人
間が登場してくる可能性が大きい。しかしこのことは、単細胞生物が、ただ単
に自己複製を繰り返していた太古に逆戻りし、人間が38億年かかってやっと
獲得してきた遺伝子の多様性に明らかに逆行することに他ならない。我々ヒト
が地球の環境の変化や、次の時代にやって来るであろう文明の進歩についてい
けない集団となり、環境によっては一気に全滅しかねない。

 イギリスのクローン羊ドーリーは、重い足関節病が起こっていることが最近
明らかにされた。成熟した体細胞を用いてクローン羊を作成したことから、染
色体の老化の指標になるテロメアが短い状態で誕生したドーリーは、当初懸念
された如く、どうも老化が早く進んでしまっているらしい。このことは太古か
ら進化を重ねた遺伝子を人間がいとも簡単に操作してしまうことへの大きな警
鐘であるのかもしれない。レプチンは肥満物質であるが、飢えをしのぐことが
最大の命題であった太古にあっては大切な物質であったに違いない。ところ
が、現代にあっては、レプチン欠乏症のヒトは長寿が多いことが知られてい
る。不都合な遺伝子は時代とともに変化する。いつか必ずチビ、デブ、ブスが
重宝される時代がやって来る。

[2003.09.06 安東由喜雄(熊本大学医学部臨床検査医学講座・講師)]
 
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                             Contents
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Notice : Movement of the Membership

Opinion: Why Does Mankind Have So Many Diseases?
 
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Notice : Movement of the Membership
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[New Members]
Keisuke Ishii, HuBit Genomix, Inc. (Sep. 24, 2003)

[Sep. 24, 2003, Secretary, Masahiro NISHIBORI]
 
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Opinion: Why Does Mankind Have So Many Diseases?
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(The original was written in Japanese and here is only a summary)

When life was created on the globe three billion and eight hundred
million years ago, there were single-cell organisms only. Because they
reproduced their bodies by cell division and inherited almost the same
characteristics, they hardly acquired biodiversity necessary for
adapting to various environmental changes.

Recently, we have just known we have as mach as thirty or forty
thousand genes through the human genome project, but this number
should not be considered too small. Diversity of human characteristics
is brought by variations not only in genes that code proteins but also
in the amount of protein production that is regulated by
regulation genes.

The human race is considered as the most evolved species and has
inevitably acquired various kinds of diseases as a cost of its
evolution. When our ancestors became prokaryotes, different species
attacked them. After they became eukaryotes and acquired a sexual
reproduction system that brought wide biodiversity, aging and death
became unavoidable. After they became multicellular organisms, cancer
appeared when cell regulating systems for harmonized differentiation
and proper proliferation failed.

When vertebrates acquired vascular systems to distribute oxygen and
nutrition throughout the body, the systems also started to distribute
pathogenic organisms to cause infectious diseases. Therefore they had
to establish immune systems, but autoimmune diseases came into
existence when the systems mistook own tissues for non-self. Amphibia
became to suffer from high blood pressure and skin diseases because
they had to adapt to both gravity and dry after they got out from the
water. Finally, the human race became to suffer from lumbago and
hernia after it stood elect. In addition, its highly developed brain
caused psychiatric diseases. Taking this long history into account, it
is little wonder that mankind has the largest number of diseases.

In near future, we will identify most of pathogenic genes and will
have options to repair undesirable genes. If we will allowed to select
babies free from undesirable genes, pathogenic genes will be
eliminated some day and our descendants will become to have only
desirable and homogeneous genes. However, biodiversity we spent three
billion and eight hundred million years to acquire will be lost and
mankind will be exposed to a constant risk of extermination by a
drastic change of environment.

The world first clone sheep is suffering from a severe joint disease.
The reason of this result is supposed that its short telomeres cause
faster aging than usual. Although leptin that has close relationship
with obesity is supposed to be an indispensable substance for
surviving when critical shortage of foods was usual, its deficiency
gives a longer life today. We must never forget that desirable genes
will change with the times.

[Sep. 9, 2003, Yukio ANDO (Dept. of Laboratory Medicine, Kumamoto
University)]
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